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ボストン便り

海外事例として、 ボストン在住の私の友人、マルヤさんからのご寄稿「ボストン便り」をご紹介いたします。なお、写真は同時にいただいたもので、適宜挿入させていただきました。(吉田)


ボストン便り
Special Educationについて(1)


The Bridge of the Heart Foundation
for Children with Special Needs
Executive Director/Founder
Tokinori Maruya

私の住むマサチューセッツは全米で初めてSpecial Educationのサポートを法案化した州で、医療と教育とハイテク産業の州でもあります。
ボストン周辺には大学が80以上あり、隣町のCambridgeはハーバード大学や
MITがあることでもでも有名です。私どもには12歳と13歳の二人の息子がおります。彼らはKindergartenから現地校に通っておりまして上の子供はAutismです。この9年間米国で彼とともに学んだこと、当地でのSpecial Educationの現状をCase Japanのご依頼によりお伝えして参りたいと存じます。Bilingual Autism の子を持つ親としての偏見が入っている文面が多少あるかとは存じますがご容赦いただきたいと思います。


Research:
米国の場合は1887年にディクレシアを発見して以来、1940年代後半からこの分野の研究が始まり、1992年からLD, ADHD、Autismなどをさらに症状別に細かく分類するようになりました。Special Educationを受ける子供たちは連邦と州の教育機関に 全データが登録され、医療や教育の指導研究に利用されますので、いまや膨大なデータ数になっていると思われます。入学に際して、個人の情報を提供し、日々の学校での写真を撮ることに保護者は同意のサインを求められます。
これらは、IEP( Individualized Education Program) for handicapped children as required by Public Law 94-142, The Education for All Handicapped Children Actにより
規定されています。この法により全てのハンデイのある子供たちは特別の教育を受けることができます。
Learning Disabilities, Serious emotional Disabilities, Mental RetardationなどのSpecial Needsを持つ児童は約400万人と全米の青少年の7.7%に達しています。

Special Education:
米国の教育現場においては上記のIEPに基づいて、1)Learning Disabilities あるいはClassroom Behavior Problems(LD, ADHD等を含む)、そして2)Developmental Disabilitiesの大きく2つの分野に分けて対応されています。Learning Disorderは日本では同じLDとして記述されている場合が多いですが、性質の違うものですので除外されているところが多いと思います。Developmental Disabilitiesは、Mental Retardation(精神遅滞:日本語では心理学用語), Down Syndrome(ダウン症), Cerebral Palsy(脳性マヒ), Autism(自閉症), Epilepsy(癲癇), Spina Bifida(脊椎破裂による水頭症)の6種類を定義しています。日本語でいう発達障害はここから翻訳されたと思いますが、DDには上記のLD, AD/HD、ADDは含まれません。Public Schoolの場合LDでSpelling, Reading, Writing, MathematicsのBasic Skillができないとか通常の授業を受けるに際して著しく支障がある場合にはLD対象のクラスに入る場合があります。またPublic Schoolの場合、受け入れているのは軽度のダウン症、Autism、Mental Retardationの子供たちで、重度の場合は、同じCounty(最小単位の行政区:郡)またはDistrict(学校行政区)にある専門校にて受け入れています。費用は全て法律で無料となっていますので私立、公立の垣根はありません。行政が負担するコストは一人当たり年4万ドルから8万ドルでスクールバスの費用も込みです。また州によってはAssessment(児童の評価診断)を専門機関に外注しているところはその費用も行政が負担します。

このBehaviorとDevelopmentという言葉は現在の米国の教育現場では重要な要素を占めており、州や地域によって呼び方は多少変わりますが、多くはBehavioral Intervention Program(BIP)と同じような意味を指す言葉で表現されています。
行政や教育機関が目指すものは;A total behavior therapy environment for teaching comprehensive skill to behaviorally and developmentally delayed student.
つまり行動的そして発育的遅れが認められる児童のための授業の理解力を図るための総合的行動療法(行動療法は医療用語としての日本語訳)と理解できます。Behaviorとは無意識に起こす行動を意味し、Developmentは新生児から85歳以上の老人にいたるまでのノーマルなその年代に応じた行動ができるかという尺度を細かく規定し(Developmental Task)それがクリアできるようにセラピーを加えていくという作業を繰り返すということです。この考え方は、米国において教育学、看護学の面でも基本的な考え方です。DevelopmentとはChanges in a person’s psychological and social functioning。そして Development TaskとはThat which the person must complete during a stage of development、と定義されます。

ホワイトボード
発表の様子


Enter a Class
IEPに基づくBIPにおいては、過去の病歴、親族の病歴、そして児童個人の聴覚、視覚、嗅覚、味覚、みぶりや運動特性、鉛筆の持ち方、それにBody Position(例えば爪先で立つことが多いとか)などを細かくレポートされ、医師の診断書、担当教師チームの面接等で個々のカリキュラムが組まれます。毎年保護者とその1年関わった教師、OT (Occupational Therapist)やスピーチ セラピストなど各セラピストが一同に集まり、担当別に個別のレポートを作成します。ここで来年もSpecial Educationが引き続き必要であればその旨地域のSpecial Education Department(Or Team)に報告され受けることができます。

OTというのはLDやAutismの子の大事な治療法でOccupational Therapyといいますが、このまま直訳すると職業病の療法なんかとなってしまいすが、これは聴覚、視覚、嗅覚、触覚、運動能力、社会通念上の礼儀作法等を細かく分けて一つ一つ正していくもので、Total Behavior Therapy(医学用語では行動療法と訳されていますが英語では精神領域を伴う行動の意味合いが強い)の一環で す。

各Elementary School, Middle School, High Schoolには学校の大きさによりますが
多くの個室があります。これは問題が認められる児童に対してセラピーを実施する個室で、たとえば通常の子供でも発音が悪いとか口が回らないなどの症状があればすぐ担任からSpeech Therapistに行き通常授業を抜けてスピーチセラピーを毎日受けます。上記のOTもこういった個室で行われますが専門教師をそれぞれの学校に振り分けている場合が多いですので、Middle の児童であっても高度なOTはHigh Schoolで行われます。米国のパブリックスクールの場合はHigh Schoolを頂点としてMiddle やElementaryをひとつの地域の学校群として捉えていますので、オーケストラの練習はどこそこのElementaryで、発表会はHigh SchoolのMuseumで行うとかのように旨く分散させながら利用しています。

たとえばわが子Yoshikiの場合、彼に散髪させるのがはさみの音が嫌いで大変だったのが、理髪師の人がここ(高校)に来てくれて散髪をしてくれました。その前にいかに頭をきれいにしておくのが大事かという授業を受けてから事に望みます。理髪師の方もこの分野のプロなのです。それ以後スムースに自宅にて散髪しています。このプログラムもBIPの一環でOTです。

Special Educationの教師は、博士課程を修了したものまたは大学院でマスターを取得した人または院で特定の単位を取得した人がなれますが、Developmental Disabilities やMultiple Disabilities のクラスでは専門分野の違う教師が6ないし7人がチームを組んでいます。
生徒はクラス平均6から8名です。指導要領や新事例などの情報交換は地域、州、連邦とまたがって実施しています。
ちなみに私どもの地域(Town)では、Elementaryが7校、Middleが1校、High Schoolが1校です。Kindergartenは各ElementaryにありますがKinderは義務教育なので独立していません。

学習の様子
発表の様子

Local EducationとSpecial Education

地域のSpecial Educationチームの本部は、町の教育委員会(Board of Educationといい委員は住民による投票で選ばれ、教育委員長はスカウト競れてくるところが多いと思います)に置き、Countyと州、または連邦のEducation Deptと連携しております。またこの町にはMay Instituteという Non-Profit Organizationがあって地域の指導と教育研究を担当しています。May Instituteは全米で最高NPO賞を取っています。約2千人の研究者や実務担当者がおり在宅教育や公立では受け入れが難しい(定義:排泄の管理がない、食欲の感覚がない、Wandering:場所の感覚がわからない、読めても話ができないなど)等のDisabilitiesを持つ子供たちを教育をしています。それ以外にこの町には私立(無料)の同じような学校があります。

大学院の修士または博士課程を取ってきたての人がこういったInstituteで研究と実際の子供の指導等の経験を経て(Carrier Upするという考え方が教育の分野でもあります)、教師の道に進んだり、またさらにその上の研究過程に進むといった方が多いというのも米国のSpecial Educationの現場の特徴でもあると思われます。また、教師は教師という専門職で、その人の能力、保有している学位、経験によって1年から3年の契約制です。もちろん更新が可能ですが、教員免許の更新(毎年更新の州もあります)もあり結構大変な職業だというのが傍で見ていて実感しています。

Special Needs を持つこどもたちの義務教育(ほとんどの地域の場合KindergartenからGrade 12:日本で言う高校三年生に相当)の上限年齢は21歳で普通の子供たちより3年長く設定してます。LDの子供たちが試験を受けるときは試験時間は通常の2倍で別室、Special Needsによっては、たとえば字を手書きできない子供 は専用のコンピュータソフト(全米統一基準)を使って試験が受けられます。字が読めない子供は、隣の席でボランテイアの方が問題を呼んでくれます(最近はコンピュータが自動で呼んでくれますがどちらも選択可能です)。代筆、計算機の使用、辞書の使用、口答試験などこれらは法律によって高校や大学の単位取得試験の際もそうした受け入れをしなければならない義務があります。

アメリカは何が強いか、いわゆるCoordinated Assessment Serviceです。幾つかの法律もあってそれが全米規模で統計が取られ、どんな症状の子供たちもまず間違わず的確な教育が受けられ治療できるAssessmentsをする能力です。何万人もの教師が精神科、心理学、神経科の医師のレポートと連携して、医療、教育、家庭Communityが一体となって、子どもの大学への進学、仕事を学ぶ環境と訓練をしています。仕事の提供も企業が十分といえないまでも、他のNPOと連携して行っています。いわゆるシステムアプローチが整備されているということだと思います。特にこの分野はNeurology(神経学)の医師が中心となって研究していますが教育学との連携も緊密に進んでいます。

Drag
教育現場では、児童の薬服の情報の共有に関する問題も重要です。
ADHDはRitalin(リタリン:中枢神経刺激剤)、Ritarin-SR, Concerta, Dexedrine、Adderall、Tofranil, Norpraman, Clonidineなどの薬を使用して効果があるとされていますが。全米で3%(ADHDとされる人数の約半数)のElementary の児童がこれらの薬を使用し、確かに服用後70%の確度で軽減または消滅しているということが多くの論文で検証されていますが、薬の効いているうちに教育指導を行うとかの療法も現実的にあります。医師や薬剤師ではない教師であってもSchool Behavior Problemの解決にはいずれこういった対応が教育現場としてしなければならない時が来るかもしれません。米国ではSchool Nurseと連携して対応マニュアルを作っているところもありますが全てではありません。

NPO:
アメリカでは、NPO(Non Profit Organization)というと、教会、図書館、学校、医療、教育や医療の研究、それにPrivate Foundationをさします。私どものBridge of the Heart Foundation(ブリッジオブザハート財団)はいわゆるEducational Private Foundationという範疇(501C(3)Organizationと呼ばれます)です。日本でいうと、宗教法人、学校法人、医療法人、社会法人、行政の特殊法人、財団法人を統合した法律に基づいた組織がアメリカで言うNPOです。日本のNPOは社団法人法の援用でありますが、米国の場合Non-Profitという点では非常にわかりやすいと思います。何を申し上げたいかといいますと、前述のOTで申しましたとおり、わが町の場合はPublic SchoolsというひとつのNPOの中に、高校、Middle School, Elementary School, Kindergartenがあってそれぞれの校舎をうまく目的にあわせて使っているところだと思います。この前、After School Programの話をしましたが、町のBoys & Girls Club(NPO)で担当し学校の先生は参加しません。大学生や高校生がボランテイアで実施します。このボランテア(参加する前試験があります)には単位が加算されます。またこのClubはSpecial Needsが必要な子供たちに水泳やアイススケート、サマースクールも実施しています。ニューヨーク周辺ではこの手の組織はまずなかったので助かっています。そしてこれらの連携した組織がSpecial Education Classesを助けていますし交流も盛んです。いじめや差別はまずありません。みんな理解してくれていますし、弟もYoshikiがサポートを受けている分、彼も幾つかのボランテイアに参加しています。

図書館もNPOでいろんな方の寄付で成り立っています。近くにハーバードやMITなどの学生が多くいるのと町の多くが学者や教育者であるという点で、午前中から大変にぎわっています。Yoshikiも生徒2−3人で先生に連れられて授業時間をここですごしています。本も当然ですがVideoも無料です。この地域はアンクル サムが全米で初めて子供図書館を作った町で、大きな図書館だけで3つあります。NPOを支えるボランテイアの活動も無視できません。というわけでNPOが町の多くをサポートしており障害を持つ人たちにとってなくてはならないものでありCommunityそのものであるというお話でした。

発表の様子
発表の様子

Language:

たとえば軽度、重度の言葉はこちらでは使用しなくなりました。(一部ではまだ使用しています)
なぜなら、LD、AD/HD、Autism、Multiple Disabilities(ご存知のように日本語では広範性発達障害と訳されています)は、多くの場合発達に伴って状態像が変化し、ある時期に(Regression:退行)を伴うケースがありますので、入り口の時点で障害の重さを量れないというのがひとつの考え方と、こども一人一人が違うということです。また軽度、重度を用い方を間違えるとこの国の場合差別用語に該当するからです。
多くのこの分野の単語はWHOの国際疾病分類ICD-10や米国精神学会等の診断基準DSM-IVの医療分野の言葉をを日本語に置き換えていますので、教育分野で使用する言葉とは違う場合が多く見受けられますし毎年研究が進むにつれ、LDひとつをとっても特徴別に細分化された用語で呼ぶようになっていますので、内容を理解しないまま言葉が一人歩きするような対応には注意が必要だと考えます。

Autismも原語はギリシャ語の”Autos=Self”からきており、Self+Ismの造語なのですが日本では自閉症と訳され、本来の(遺伝性中枢神経異常:正しくは”そうであろう”というところまでは研究が進んでいます)意図するものとは異なる語感があり、一部マスコミの報道や政治家の失言を引き起こすなど問題があったのも記憶に新しいところであります。研究によって解明されるに伴い米国のように呼び方を変える柔軟性も時には必要なのかも知れません。


また、たとえば教育分野や支援団体が使うExceptional Children、や我がNPOが使っているSpecial Needsは日本語にすんなり翻訳できない言葉でもあります。Exceptionalはご存知のように異常な、特別のというマイナーな意味がありますが反面並外れたとか非凡な、優れたという意味があります。またこの子達のような子をGifted(有能な)とかTalented(才能のある)Childrenという表現をします。Special Needsもあえて日本語に訳すと(特別な配慮が必要なというよりは特別な
障害を持つ)と訳さないと意味がなさない場合もあるとと思います。アメリカにおいては宗教的な考え方も あり、何かしら障害を持った子供たちは反面すばらしい能力を神様が授けてくださったという考え方なのでしょうか。

Exceptional ChildrenとSpecial Needsいう言葉ではありませんが、その単語をみて翻意できるというのは、日本語の得意とする特徴であったわけですが、障害という言葉を使わないとその意味が伝わらないのは悲しい気がしてなりません。また逆に、LDやAutismなどこの文に述べてきた子供たちは現代医学では治らないということをしっかりと受け止め理解し、親や教育が何を彼らにしてやれるか、唯一それは社会に出て少しでも受け入れられる人間になれるようInterventionしてやることしかないのではないかと思います。Special Educationの目的は、社会または高等教育に彼らをいかに送り出せるか、社会も教育もいかに公平にボーダーなく迎え入れられるシステムアプローチの整備が日本においては重要なファクターであると思います。



おわり
Copyright 2004, The Bridge of the Heart Foundation

CASE Japanへのご寄稿: 2004年4月

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